ここ数年、世の中は目まぐるしく変化していますよね。そして、その変化をうまく利用して、ビジネスをスマートに成長させる方法を探求する日々です。ビジネス戦略の大きな転換は、日常生活における小さな変化から生まれるものだと、私は最近強く感じています。それを説明するために、まずは私の日常を例に挙げてみましょう。
顧客体験の創造的破壊: スマートな成長を牽引する新しいリーダー企業
毎朝、愛犬のロミオと会社へ向かうのですが(HubSpotのボストンオフィスでは犬連れ出勤が推奨されているんです)、仕事が終わったらLyftで一緒に帰宅します。家に着くと、Spotifyでグレイトフル・デッドを大音量でかけながらキッチンへ。ロミオは、おもちゃやChewy.comから届いた新しいおやつに夢中です。
夕食はDoordashでタイ料理を注文。食後はNetflixで映画を観ながらソファでくつろぎ、眠くなったらCasperのベッドに潜り込んで読書。翌朝はシャワーを浴びて、Dollar Shave Clubのシェーバーでヒゲを剃り、新しい1日をスタートさせる…といった具合です。
これらの企業名を挙げたのは、宣伝するためではありません。共通点があるからです。それは、顧客にとっての快適さを追求しているということ。つまり、顧客体験に摩擦がないんです。私の生活がストレスなくスムーズに流れるのは、こうした企業の製品やサービスのおかげなのです。
これはB2Cビジネスだけではありません。B2Bにおいても、顧客にストレスのない快適な体験を提供しようと努力する企業が増えています。しかし、最近の新しいビジネスは顧客体験に注力しているだけではありません。消費者が企業に何を期待するかという根本的な概念すら、創造的に破壊しているのです。
変化する創造的破壊の本質
「創造的破壊」は私がよく使う言葉ですが、ビジネス界ではあまり理解されていない言葉かもしれません。「機械学習」と「ブロックチェーン」の中間くらいでしょうか。
「創造的破壊」というと、通常は業界をひっくり返すような技術革新を意味します。私がテック業界で仕事を始めた頃は、Netscapeのブラウザ、Googleの検索エンジン、Intelのチップ、iPhone、Teslaの自動車などが、その典型でした。これらに共通するのは、ビジネスの根幹を支える基盤技術を持っていることです。ほとんどの場合、競争の中で追随を許さない真の武器となっていたのは、こうした技術力でした。
これらの5社の特許を合計すると、5万6000件をゆうに超えます。
しかし、何かが変わってきました。現在、市場を塗り替えようとしている企業は、基盤となるほどの技術力を持っていない場合が多いのです。今や企業の競争力は、技術革新とはほど遠いところにあります。
先ほど挙げた私の生活の一部になっている企業の特許をすべて合わせても、たったの500件ほどしかありません。テクノロジーの創造的破壊者でないのなら、彼らは一体何者なのでしょうか?
私は、「顧客体験の創造的破壊者」と呼んでいます。そのような企業こそが成長を牽引する新しいリーダーであり、消費者が企業に期待することを根底から覆し、まったく新しい価値を生み出しているのです。
この半年ほど、私は職場と自宅の両方で自分の日常生活の一部になっている製品を提供する企業を1つずつ詳しく調べてきました。顧客体験の創造的破壊者の製品すべてを使ってみて、利用規約も一語一句読破し、設立者や経営幹部、投資家にも話を聞きました。いったい何が起こっているのかをきちんと理解したいと思ったからです。そして、納得できる答えを得ることができました。
顧客体験の創造的破壊者たちの共通点
サービス業の考え方が基盤となっている
最初に気がつくことは、新しく台頭してきた企業が従来のテック企業とは大きく異なる方針を取っていることです。ソフトウェア大手のOracleやネットワーク機器大手のCiscoなどよりも、Four SeasonsやRitz Carltonといったサービス業に似ています。
実際、創業者の多くもサービス業出身者であることに驚かされました。つまり、サービス業の考え方をもとに、理想とする顧客体験の基盤を作り上げています。そして、その基盤が企業のカルチャーを創り、ビジネスを成功に導く手法に影響を与えているのです。
製品だけではなく顧客体験も評価する
一般的な企業は、製品の売れ行き、連続稼働時間、使用方法などの指標を用いて製品がうまく機能しているかを判断します。しかし顧客体験の創造的破壊者たちは、製品を評価する際に機能性だけではなく製品使用時の顧客体験にも目を向けます。
たとえば、モバイル決済サービスのSquareは決済の件数だけでなく、支払いが完了するまでに要したカード読み取り回数を測定しています。決済の件数よりも読み取り回数の方が、現実的に利用者の満足度を反映していると言えるからです。
自社製品を実際に利用している
Lyftの経営陣が、ドライバーの体験を肌で感じられるようドライバー業務を副業としているのは有名な話です。また、オンライン会議室システムを提供するZoomのCEO、Eric Yuan氏は自社製品のヘビーユーザーであり、フィードバックの数も人一番多いといわれています。自分のオフィスからZoomを通じてIPOの中継を一手に取り仕切り、その強み、信頼性、使いやすさを実証してみせたのもYuan氏自身でした。社内で自社製品を徹底的に使うことで、顧客体験を理解することができるのです。これはもはやユーザーの調査やペルソナの作成をどんなに改善しても到達できるものではありません。
ペルソナではなく顧客の多様性を分析する
顧客体験の創造的破壊者たちは、ペルソナにはさほど関心を示さず、その分、顧客の計り知れない多様性を重視しています。AIスタイリストによる商品提案型のファッション通販サービスを提供するStitch FixのCEO、Katrina Lake氏は、ペルソナ分析をやめ、代わりにデータの「クラスター」を分析し始めたと発表しました。同社のクラスター分析は、年齢やサイズといった限定された変数ではなく、無数の生きた情報に基づいています。同様に、Spotifyもペルソナ分析を撤廃し、「夏の日の花火」「ドライブ」「集中用」といったリスニングシーンによる分析に切り替えたところ、音楽トレンドの移り変わりや進化について数え切れないほどの角度から分析できるようになったといいます。
使った分だけ支払うサービスを提供する
別の共通点として、利用した分だけ支払うシステムによって利用者を喜ばせている点も挙げられます。顧客は本当に必要な対価のみを支払えばよく、不要なサービスが含まれる全機能満載のパッケージ料金などは支払わなくてよいというシステムです。
たとえばStitch Fixは、利用者に毎月500ドル相当の衣料品がつまった箱を届け、利用者はその中から気に入った服だけを購入し他はStitch Fixに送り返す、というサービスを行っています。利用者は1箱20ドルの基本料金と、購入した服の代金を支払います。また、HubSpotでも活用しているSlackも同じようなシステムを採用しています。契約時は社員の人数に合わせて料金を見積もりますが、実際に使用しなかった分はクレジットポイントとして Slack アカウントに付与されます。こうした計らいは契約更新の際にも優位に働きます。
注文の取り消しや返品を受け入れる
ペット商品の専門店Chewy.comは、返品や注文の取り消しへの対応で一躍有名になりました。ネット上の口コミによると、大切なペットを亡くした飼い主が注文の取り消しをChewyに依頼したところ、取り消し手続きをすみやかに行ってもらえただけでなく、花束と哀悼の言葉を書き添えたメッセージカードが送られてきたとのことです。また、サイズが合わずに返品したいと申し出た顧客には、別のサイズを送り、サイズが合わなかったものは返品せずに知り合いに譲ることをすすめているそうです。
これは様々な観点から、賢い対応方法だと言えます。企業にとっては返品処理コストの方が高くつくため経費削減につながる上、1つでも多くの自社商品が世の中に出回ることで新しい見込み客も期待できるからです。
仲介業者を省略する
顧客満足度の向上は、顧客体験に一貫して働きかけられるかどうかにかかっています。流通や販売を外部に委託するとその部分の舵取りができなくなります。そこで、最近のビジネスの多くは仲介業者を介在させずに消費者へ直接販売する道を選びました。Away.com、Chewy.com、Glossierなどは小売店での販売を行わず、直接販売によってビジネスを成長させてきました。
この傾向はB2Bにも見られます。コワーキングスペースのWeWorkを利用する際、わざわざ不動産業者を仲介して契約する人はいないでしょう。WeWorkを利用したいなら、WeWorkで直接申し込めます。つまり、顧客との関係と販路の両方を自分たちで掌握しているのです。
カスタマーサポートをチャンスと捉える
以前の企業はカスタマーサポートを単なるコストセンターと見なし、企業の義務として設けただけでビジネスの成長には直接寄与しないと考えていました。しかし最近の企業は、カスタマーサポートを別の角度から捉えています。
なかでもTeslaはこれまでの見方を変え、自社の目標と顧客のニーズを両立させています。たとえば、以前は車の修理を依頼しにきた顧客は、作業が終わるまで待合室で長時間待たされていました。ほとんどの場合、長く待たされるのは作業設備が限られているためです。その対策として設備を増強するか、あるいは方針を変えるかが考えられるでしょう。
そこで修理が必要になる原因を調査したところ、80%の車はほんの5~10分で修理できることがわかりました。そのためTeslaは新しい方針として、修理に時間のかからない故障の場合は修理スタッフを車の所有者の自宅へ派遣し、その場で修理するようにしました。こうしてTeslaは作業設備を効率的に活用できるようになり、あわせて顧客満足度も改善することができました。
顧客体験の創造的破壊者たちの共通する思考
ここでもう1つ、押さえておきたいことがあります。調査対象となった顧客体験の創造的破壊者たちに共通する根本的な考え方です。
通常、多くの企業は、「AとBのいずれか」という二者択一の思考に陥りがちです。はやく成長するか、着実に成長するか。投資家を喜ばせるか、顧客を喜ばせるか。製品に投資するか、顧客体験に投資するか。
今の世界を牽引する多くの企業のリーダーと話した私は、この二者択一という考え方が、いかに目先のことしか見ていないかを実感しました。
顧客体験の創造的破壊者たちは取捨選択せず、「AもBも全部」という貪欲な思考を取り入れています。顧客への投資額が多ければ多いほど、投資家への見返りも多くなる。着実な成長は、よりスピーディーな成長を促す。顧客体験を改善すれば、それだけ製品も高品質なものになる。
顧客満足度の向上のために必要な選択に注力することで、フライホイールの回転速度を高め、ビジネスの成長を後押しすることができます。
顧客体験の創造的破壊: 未来への展望
顧客体験の創造的破壊は、企業の成長を牽引する新たな潮流です。消費者の期待を上回る体験を提供し、顧客とのつながりを深めることで、企業は持続的な成長を実現できるのです。
私たちHubSpotも、顧客体験の向上に尽力しています。今回の「INBOUND」で発表した数々の新機能や改善点はすべて、お客様の声を直接反映したものです。もしかすると、実現した新機能の1つはあなたが提案してくださったアイディアかもしれません。
HubSpotでは、大切なお客様からのフィードバックを何よりも大切にしています。これからも皆さんのご意見をぜひお寄せください。
顧客体験の創造的破壊は、私たち自身のビジネスにも大きな影響を与えています。これからも顧客の声に耳を傾け、変化を恐れずに進化を続けていきたいと思います。